今回は、事業戦略立案とそれに必要な現状把握(環境分析)の進め方、そこで使用されるフレームワークに関して記事を作成します。
特に、事業戦略を立案する際によく用いられるフレームワークとその活用方法に関してまとめます。
この記事を参考にして頂ければ、戦略立案とそれに必要な分析の全体像をイメージして頂けるのではないかと思います。
■事業戦略の立案と実行の進め方
- 現状把握 → 戦略立案 → 戦略実行の順で進める
- 現状把握、戦略立案にはフレームワークを適切に活用する
■フレームワーク使用時に留意する事
- それぞれのフレームワークの目的と分析対象を理解したうえで使用する
- 現状把握の分析は広い範囲から絞り込む。(見落としに注意)
- 他のフレームワークで得られた結果をもれなく反映する
- 客観的な事実に基づいて活用する(思い込みは排除)
事業戦略の立案・実行と環境分析の重要性

あなたが経営者や事業責任者という立場であれば「言わずもがな」ですが、リーダーであれ、一担当者(メンバー)であれ、ご自身が関わっている事業をより健全に運営する事は企業の経営を安定化させるうえで極めて重要です。
事業の安定化をはかるためには、環境の変化に対応し競合に対してより優位に立つための戦略を立案、実行する必要があります。
つまり、実行前に立案された戦略の質が、事業のその後の命運を左右すると言っても過言ではありません。
しかし、事業戦略を立案すると言っても”ゼロ”の状態から戦略を作り上げる事は困難ですし、仮にできたとしても、何らかの見落としがあったり、立案者の思い込みが入っていたりするなど、あまり質が高くない戦略ができあがる可能性が高いと思います。
そうならないための一つの解決策として、フレームワークを活用しながら戦略を練り上げていく、という方法があります。
フレームワークを使用すれば、抜け漏れなく客観的な視点で状況を分析する事ができ、その結果をベースに質の高い戦略を得る事ができるからです。
事業戦略の立案と実行の進め方

では、具体的に事業戦略立案の全体像を見ていきましょう。
事業戦略を立案し、それを実行する場合、最初に取りかかるべきなのは「現状把握」です。
現状把握の結果を踏まえて戦略を立案し、さらには実行段階へと移行していきます。
つまり以下の3ステップで事業戦略が実行されていきます。
- 現状把握
- 戦略立案
- 戦略実行
それぞれのステップにおいては様々なフレームワーク分析手法が提案されていますので、把握したい内容に応じて適切に使い分けながら戦略を練り上げていきます。
この記事では、1. 現状把握、2. 戦略立案、に関するフレームワークとともに、戦略立案の流れを説明していきます。
現状把握に役立つフレームワーク分析

現状把握に役立つ代表的なフレームワーク分析として以下の様なものがあります。
- PEST分析(マクロ環境分析)
- 5フォース分析(業界分析)
- 3C分析(業界分析)
- バリューチェーン[VC]分析(自社分析)
- VRIO分析(自社分析)
- SWOT分析(自社分析)
それぞれ簡単にご説明します。
PEST分析(マクロ環境分析)
PEST分析は企業を取り巻く世の中の状況(マクロ環境)を客観的に分析し明らかにするためのフレームワークです。
特に企業において事業戦略を立案する際の初期段階によく使われます。
分析の際には、名前の由来にもなっている下記の4つの観点で分析を実施します。
- 政治(Politics)
- 経済(Economy)
- 社会(Society)
- 技術(Technology)
5フォース分析(業界分析)
5フォース分析は事業を展開している業界において「自社に働く圧力」の状況を把握するフレームワークです。
業界構造が把握でき、結果として自社にとって収益をあげやすい業界なのかどうかが分かり、また、どうなれば収益をあげやすくなるのか理解できます。
ちなみに5フォースの名前の由来になっている「圧力」とは以下の5つです。
- 競合同士の競争
- 売り手の交渉力
- 買い手の交渉力
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
3C分析(業界分析)
3C分析は、下記の3つの観点で、市場全体を俯瞰的に現状把握するフレームワークです。
(3つの観点の英語の頭文字をとって3C分析と呼ばれています)
- 顧客(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
バリューチェーン[VC]分析(自社分析)
バリューチェーン分析は、事業活動を「主活動」と「支援活動」に分類し、特に主活動の全体像をフローとして理解する事で、効率的に付加価値を高めているプロセスと、そうでないプロセスを把握する事ができます。
その結果、バリューチェーン全体を最適化するための”次の一手”を見出し、それを実行する事で、顧客に提供する付加価値を高める事ができます。
VRIO分析(自社分析)
企業の経営資源に関して強みと弱み(競合に対する優位性)を分析するフレームワークです。
- 経済価値(Value)
- 希少性(Rarity)
- 模倣困難性(Inimitability)
- 組織(Organization)の4つの英語の頭文字をとってこう呼ばれています。
VRIO分析は分析対象が決まっておらず、分析すべき自社の経営資源(と思われる要素)を分析者が選定する必要があります。
重要と思われる要素は必ず分析してください。
SWOT分析(自社分析)
SWOT分析は外部・内部環境を踏まえ、自社の現状を明らかにする分析です。
- 内部環境のポジティブな状況 → 企業にとっての強み(Strength)
- 内部環境のネガティブな状況 → 企業にとっての弱み(Weakness)
- 外部環境のポジティブな状況 → 企業にとっての機会(Opportunity)
- 外部環境のネガティブな状況 → 企業にとっての脅威(Threat)
これら4つの観点の英語の頭文字をとって”SWOT分析”と呼ばれています。
後述しますが、現状把握の最後に実施する事をお勧めします。
上記のフレームワーク分析は、いずれも現状を把握する事を目的としていますが、その把握対象はそれぞれ異なります。
これらのうち最も広範囲に分析を実施しているのはPEST分析(マクロ環境分析)、次に広範囲なのが3C分析と5フォース分析(業界分析)、最も狭い範囲を分析対象としているのがバリューチェーン分析、VRIO分析、SWOT分析(自社分析)です。
実際に現状を把握する際には、より広範囲に分析しているPEST分析から実施するのが良いと思います。
なぜならば、より狭い範囲の分析を先に実施してしまうと、分析を実施する際に重要な観点に気付かず「見落とし」が発生する可能性が高いからです。
もし、現状把握の段階で何か重大な「見落とし」をしてしまうと、その観点に関する戦略や具体的な施策が何も立案されないため、戦略の質が低下します。
その「見落とし」が重大なものであればある程、後になって大きな問題を引き起こす可能性が高くなりますのでご注意ください。
PEST分析の次は、5フォース分析と3C分析を実施して業界の動向とその中におかれた自社の状況を把握します。
尚、5フォース分析と3C分析については、5フォース分析を先に実施する事をお勧めします。
5フォース分析が業界全体に目を向けた分析であるのに対し、3C分析は自社と競合に対して、より具体的な観点で分析をするからです。
次はバリューチェーン(VC)分析、VRIO分析、SWOT分析ですが、バリューチェーン分析とVRIO分析は同時に実施するのが良いと考えています。
それはVRIO分析だけがこれらのフレームワークの中で唯一「分析対象が決まっていない」からです。
つまり、バリューチェーン分析で明らかになった自社のバリューチェーンの各プロセスに関して、それぞれVRIO分析を実施し、強み(或いは弱み)の程度を明らかにするのです。
その結果を踏まえて再度自社のバリューチェーンを見直すと、バリューチェーンにおける自社の強み・弱みや競合との差別化の可能性を見つけやすくなるはずです。
尚、VRIO分析はバリューチェーン以外にも、自社のあらゆる要素について分析する事が可能です。
特に、これ以前に実施したPEST、5フォース、3C分析の結果の中に気になる要素があった場合は、必ずVRIO分析を実施しておくと良いでしょう。
最後にこれまで実施したすべての結果を踏まえ、SWOT分析を行いましょう。
SWOT分析は自社を見つめる分析ではありますが、単に自社の現状を分析するのではなく、外部の環境も意識しながら、「環境の中にある自社」を分析するためのフレームワークだからです。
その他の分析結果を踏まえたうえでSWOT分析を実施すれば、まさに現在の環境において自社がどの様な状態であるのか、網羅的に把握できるでしょう。
戦略立案に役立つフレームワーク

現状把握が終わったら、いよいよ戦略立案のステップに移行します。
その際に、具体的な戦略を練り上げていくのに役立つフレームワークは以下の通りです。
- STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
- マーケティングミックス(4P、4C)
これらのフレームワークを使用して戦略を練り上げていく訳ですが、現状把握の際に実施した各種のフレームワーク分析の結果を踏まえて、戦略立案を実施する事が重要です。
特にSWOT分析の結果は他の分析結果も包含していますので常に念頭において戦略を立案してください。もちろん、他の分析結果もお忘れなく。
STPとマーケティングミックスに関して下記でご説明します。
STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
STPとは、”セグメンテーション(Segmentation)”、”ターゲティング(Targeting)”、”ポジショニング(Positioning)”の3つのステップを経て自社の戦略の方向性を決めるフレームワークです。
具体的には
セグメンテーションによって市場(顧客)を分類し
ターゲティングによって分類した顧客の中からターゲットを絞り込み
さらにはターゲットとして絞り込んだ”顧客”のニーズに合わせてポジショニングを検討します。
それにより、”顧客の価値”と”独自の強み”を結び付けて競合との差別化をはかり、市場での優位性を築く事を目指します。
マーケティングミックス(4P、4C)
STPのフレームワークにより差別化の方向性とともに、「誰に」「どの様な価値を提供するのか」が決まります。
マーケティイングミックスでは、STPで検討された戦略の方向性を、さらに具体的な施策へと落とし込みます。
その際には4Pと呼ばれる4つの視点
- 商品(Product)
- 価格(Price)
- プロモーション(Promotion)
- 流通(Place)
を意識し、4つの視点を互いに最適化する事によって具体的な施策を立案します。
マーケティングミックスの作業が終われば、事業戦略の立案はほぼ完了といえます。
後は施策をすみやかに実行に移しましょう。
フレームワーク使用時に留意する事
フレームワークは便利で強力なツールですが、いくつか注意すべき事があります。
① フレームワークの目的や分析対象を正しく理解して使用する
これがあやふやなまま使用すると、フレームワークの精度や質が低下します。
② 現状把握の分析は広い範囲から絞り込む
既に述べましたが、より広い分析対象から絞り込む様に分析する事が「見落とし」を減らす有効な手段となります。
③ 他のフレームワークで得られた結果をもれなく反映する
先に実施しているフレームワークから得られた「気付き」は、従来は見落としていなかった観点ですので画期的な戦略の種になる可能性があります。必ず活用しましょう。
④ 客観的な事実に基づいて活用する(思い込みは排除)
何事もそうですが、余計な思い込みでフレームワークを活用しても、得られる結果はただの「思い込み」です。情熱という意味での”想い”は大切ですが、分析の際には思い込みを排除し“客観的な事実”に基づいてフレームワークを行ってください。
まとめ
フレームワークは必要な観点をあらかじめ提示して、複数の人間が共通認識を持ちながら議論できるうえに、「見落とし」が無い様に現状把握する事をサポートしてくれるため、ツールとしては大変有用ですが、残念ながら完璧なものではありません。
結局のところ、それを使う者の理解度や創造力があればこそ有効に機能するものです。
それぞれのフレームワークに対する理解を深め、あなたが関わっている事業について創造的で画期的な戦略を立案してください。